<基礎作り>
私は3歳からピアノ一筋で、練習練習の毎日を送ってきました。
特に10歳の頃から師事した、桐朋学園大学元ピアノ科主任教授でいらした故・林秀光先生は、作品を深く読み取ること、ピアノの基礎的技術を磨くことに一切の妥協をなさらない方で、12年間みっちりと音楽の基礎を鍛えるレッスンをしてくださいました。
まだ未熟だった私は、その厳しいレッスンについていくのに精一杯でした。
音楽の土台となる体作りから始まり、手指の正しいポジショニング、指先の強化など、本当に根気強く何年にも渡り、私を鍛えてくださったことに、心から感謝しています。
<自由な表現との出会い>
大学卒業後、一人の魅力的なピアニストを訪ねて、フランスへ渡りました。
そのピアニストとは、サンソン・フランソワ唯一人の弟子である、ブルーノ・リグット先生。
そこで私が体験したのは、いままでとは180度違うアプローチのレッスンだったのです。
彼のレッスンはとても刺激的で、それはそれはユニークなものでした。
私が弾いていると、何やら後ろでごそごそしていると思ったら、紙に大きく「❤」を書いていた・・・
それを持ちながら一緒に歌ってくれたのですが、たったそれだけのことなのに、自分の心がほぐれ、音が丸く豊かに変わった瞬間を、今でも鮮明に憶えています。
いままでの自分に足りなかった大切なものを教えてくれた瞬間でした。
彼のレッスンはまるで魔法でした。
日に日に表現の自由を得た私の音楽は、変わっていきました。
それは大きな喜びと自信になったのです。
<自己表現方法の探究>
喜んで自由に歩き始めたら、今度はどこへ向かって歩いたら良いのか悩むことになりました。
いままで、レールがちゃんと引いてあったのに・・・
その答えを探しながら、パリでの勉強を続けました。
そこから先は、自分自身と真剣に向き合い、自らを表現する方法を探すこと。
パリでは、一流のアーティストのコンサートが沢山開かれ、学生券として格安で手に入るようになっていましたので、とにかく沢山のコンサートを聴き、そして、多くの作曲家が過ごしたパリに身を置き、全身で貪欲に吸収しようとしていました。
行き詰まり、思い悩んだこともありましたが、偉大なピアニスト達のアドヴァイスを受け、その度に乗り越えていきました。
<日本と海外、両方の良さを経験して>
今までの経験を振り返ってみると、日本での基礎的な土台を鍛えていたからこそ、本場フランスで表現の自由も得られたのだと思います。
沢山の困難もありましたが、自らの演奏が変化していき、自分が演奏する意味が見えた瞬間の感動はいまでも鮮明に覚えています。
この経験を活かし、ひとりひとりの生徒さまに適したレッスンを行い、基礎と美しい表現力も持ち合わせた演奏家の育成に取り組んで参ります。
そして音楽の深さと素晴らしさを、多くの生徒様にお伝えしていければと願っています。
若尾佳代